スカイカーシェアという高級車のカーシェア投資を行っていた会社をご存じだろうか。
レクサスやアルファードなど、数百万円する高級車をローンで契約して、カーシェアに出せば儲かります、と個人客を騙していた投資詐欺会社だ。
これについては詐欺だったし、自分で何も考えていない人が騙さてしまっただけという話なのだが、じゃあ実際に自分でカーシェアをやろうと思ったら儲けられるのか考えてみたい。
もし収益が見込めるなら私自身がやっていこうと思うので、しっかり検討していく。
■収入源はAnyca(エニカ)でのカーシェア
カーシェアには「法人対個人」と「個人対個人」の2種類ある。
「法人対個人」にはタイムズカーシェア(タイムズモビリティ)やカレコ・カーシェアリング(三井不動産リアルティ)などがあるが、個人オーナーは貸し出しができない。
個人で貸し出す側になれるのは「個人対個人」で、最大手のAnycaやGO2GOなどがある。
投資として考えたときに、お客さんがたくさんいることは必須なので、以降は最大手のAnycaで収支分析をしていくこととする。
■収益の計算式を考える。
エニカで投資をはじめた場合の収支項目は以下の通り。
粗利益=カーシェア受取料金-車購入代金-維持費
維持費は駐車場代、税金、車検代、保険代、メンテナンス費などの固定費だけで構成する。
通常の車所有ではガソリン代やコインパーキング代などが変動費としてかかってくるが、カーシェアをやる分にはほとんどかからないと考えて差し支えないと思われるので一旦無視する。
まずはざっくり収益が見込めそうかどうかだけ計算すればよいので概算でいいのだ。
収益が見込めそうなら、より精緻に計算しなおせばよい。
維持費は車種によってあまり変わらない。エコカー減税が適用になるとか、重量税とか、変動要素はあるが、これら変動要素も一旦無視して一律の金額で考える。
であれば、一番重要なのは「カーシェア受取料金-車購入代金」をどれだけ大きくできるかを考えればよい。
■車は人気車種のアルファード
DeNA SOMPO Mobility(エニカの運営会社)の発表によると、トヨタのアルファードが2019,2020年度の人気シェアランキングで1位になっている。
この表から平均シェア料金と平均シェア受取金額をプロットしてみると以下のようなグラフになる(オレンジの点)。
青い線はオレンジを雰囲気で回帰分析したもの。
シェア料金が高くなると回転率が悪くなり、受取金額の増加率は逓減していくのかと思ったが、この金額範囲に限って言えばそうではなさそうである。
本来ならここで車の購入代金とシェア料金の比を調べて最もコスパのいい車種を選ぶべきだが、そうはしない。
そもそもこの投資、ほとんど利益が出ないと思っている。利益が出るとすれば値下がり率の低い車で運用して数年で売却する戦略だ。
したがって、中古販売価格の値下がり率が低い車種を選ぶことは決まっているのだ。
諸説あるが、このランキング内の車種ではトヨタのアルファードは値下がり率が低いことで知られている。
いったんアルファードで分析してみて、他の車種ならいけそうか、全然ダメそうかを判断したい。
■年数の経過に伴って利益は減っていく
カーシェア受取料金-車購入代金
が重要ということだが、年式が落ちるとカーシェア料金も下がってしまう。
グラフはAnycaに登録されていた20件分のアルファードのシェア料金を年式ごとに平均値をとってプロットしたもの(オレンジ)。青い点はオレンジの雰囲気回帰分析。外れ値は除外した。
グラフから分かるように、不動産投資と同様、経年劣化で収入は減ってしまうのだ。
さらに、売却を考えている場合は走行距離も気にしておく必要がある。
お客さんは気にしないし、Anycaのページにも表示する欄はないので、走行距離はシェア料金に影響することはない。(購入時10万km以上の中古車はカーシェアに出せないが)
しかし、中古車として販売する場合は走行距離がシビアに響いてくる。
このような値下がりの影響も考慮に入れる必要がある。
参考にしたサイト https://shauru.jp/kaitori/satei/alphard/
■固定費は減らない
見てきたように収入は減っていくのだが、固定費は当然減らない。
いろいろ調べた結果、年間の固定費は以下のとおり。
駐車場代は私の近隣駐車場の相場2.4万円の12倍。
車検は2年に一度10万円程かかるので、半額の5万円とした。
実際に運転はしないので任意保険には入らない。
※Anycaにはデリバリーサービスというものがあって、オーナーがターミナル駅等に車をもっていき、そこで引き渡しを行う場合がある。その回数が多いのであれば、任意保険への加入も検討しなければならないが、一旦考慮しないこととした。
■収支分析の結果、大赤字
カーセンサーで実際に販売されている車のパラメーター(購入金額、年式、走行距離)を使って収支を計算してみた結果がこちら。
2022年式のアルファードで、1年目のシェア金額は13,000円。
月額受取金額(=いわゆる売上)は76,900円。
そこから一定のペースで減少していく。
維持費は前の項で計算した462,510円をそのまま使用。
この結果10年目までは順調に収支を回復させているが、11年目で売上額と維持費が逆転し、以降の収支は悪化の一途をたどる。
収支は一番いいときでも140万円の赤字だ。
ビジネスとしては大失敗である。
■売却を含めて考えても赤字
では当初から考慮していた、途中で売却をする場合はどうなるだろうか。
考慮して計算した結果がこちらだ。
走行距離は1回のシェアで200km(東京~富士急ハイランドの往復を想定)、月5~6回シェアするとして、年間で1.25万km走行すると仮定した。走行距離20万km以上の買取価格はデータの信頼度が低かったため考慮していない。
1年目の売却価格は購入金額÷1.15で計算している。
通常、中古車販売においては仕入れ値が10~20%であるので、中間値の15%が中古車販売店の利益で計上されていると想定。399.8万円を1+15%で割った金額が仕入れ値になるので、この金額で売却できると仮定。
既述のグラフどおりに買取価格が減衰するとして、それぞれの経過年数ごとに売却価格を考慮したのが売却時収支となる。
いくら値下がり率が低いとはいえ、10年目まではガンガン値下がるので、収支がプラスになることはなかった。
■今回考慮できていない要素
以上の検討結果から、基本的にAnycaでカーシェア投資をしても儲からないことが分かった。
ただし、今回考慮できていない条件がいくつかある。
・プラス面
今回、月額受取金額については平均値で計算している。
Anycaは投資目的ではなく、すでに所有している車を使っていないときに貸し出すというのがメイン。
つまり、オーナー自身が使いたい、仕事で受け渡し対応ができないなどの事情で貸せない機会も多く発生している可能性が高い。
そこで、機会損失を極力なくす努力をしてみよう。
たとえば貸し出しの立ち合いは朝6時~深夜1時まで、返却は無人にして24時間365日対応可能にする。
必然お客さん目線で借りやすくなり、月のシェア回数が10~12回になれば3年で収支はプラスになる。
・マイナス面
マイナス面は上げればキリがないが、想定される支出・収入の減少要因は
- 任意保険の加入
- セキュリティ強化(返却を無人にするなら機械式は不可。必然、防犯のためのコストがかかってくる)
- 事故による車両の修理費、もしくは廃車による車両自体の損失。
- 事故の場合、代わりの車を用意できるまで収入がストップすること。
- アルファードの人気低迷
- 社会の変化(車の所有率アップ、外出回数の低下、ガソリンの高騰)
等が考えられる。
また収入の増減に直接影響はしないが、日々の雑務(車の清掃、利用希望者とのやり取り)が多く発生し、労働に近くなる。
そうやってリスクを負って頑張った先に得られる利益が年間で100万円にも満たないのだ。
もちろん、2台目3台目と車を増やし、実績を積み重ねていけばレンタカー屋として独立できる可能性もある。
これは『どこまで本気になれるか』という勝負になってくるだろう。
■まとめ
今日書いたことは数時間調べただけの超おおざっぱな計算であり、もっと細かく調べなければいけないことはあるかもしれない。
だが、冒頭で触れたスカイカーシェアに騙されてしまった人はこの数時間の手間すらかけずにお金を払ってしまったに違いない。
ビジネスや人生の本質は『自分で考えること』
どこまで突き詰めていってもそれしかないのだ。
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